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東京地方裁判所 平成4年(特わ)1749号 判決

右六名に対する相続税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官蝦名俊晴、弁護人丸山利明、同小林實、同斎喜要(全被告人に共通)出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人松岡喜美、同太田幸子、同松岡滿喜子、同松岡冨美子及び同松岡美重子をそれぞれ懲役一年六月及び罰金六〇〇〇万円に、同堀越喜久子を懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円に処する。

被告人らにおいて罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。

被告人らに対し、この裁判の確定した日から三年間それぞれ懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人六名は、東京都港区白金台五丁目一二番六号に居住していた父松岡清次郎の死亡により同人の財産を共同相続したものであるが、共謀のうえ、各自の相続税を免れようと企て、相続財産の一部である割引債券の一部を除外して課税価格を減少させることによって、相続した財産の正規の相続税課税価格がそれぞれ、被告人松岡喜美分が三五億七一四四万二〇〇〇円、同太田幸子分が二七億五一〇四万七〇〇〇円、同松岡滿喜子分が四億七八九二万二〇〇〇円、同松岡冨美子分が三五億二六一三万四〇〇〇円、同松岡美重子分が三四億九七一二万三〇〇〇円、同堀越喜久子分が三三億六〇四八万八〇〇〇円であった(別紙1相続財産の内訳参照)にもかかわらず、平成元年九月二〇日、同区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、各被告人の相続税課税価格及び相続税額がそれぞれ、被告人松岡喜美については三一億三三三万円で二〇億四〇四二万七一〇〇円、同太田幸子については二二億七二一〇万二〇〇〇円で一五億五四六一万一一〇〇円、同松岡滿喜子についてはいずれも零、同松岡冨美子については三〇億五六一六万一〇〇〇円で二〇億四〇四二万七一〇〇円、同松岡美重子については三〇億一七七四万円で二〇億四〇四二万七一〇〇円、同堀越喜久子については三一億二〇八四万三〇〇〇円で二〇億四〇四二万七一〇〇円である旨の虚偽の相続税申告書(平成四年押第一七四九号の1)を共同して提出し、そのまま法定の納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告人松岡喜美は、正規の相続税額二三億九九六七万二五〇〇円と右申告相続税額との差額三億五九二四万五四〇〇円を、同太田幸子については、正規の相続税額一八億四八四四万四三〇〇円との同差額二億九三八三万三二〇〇円を、同松岡滿喜子については、正規の相続税額三億二一七九万四〇〇円を、同松岡冨美子については、正規の相続税額二三億六九二二万九八〇〇円との同差額三億二八八〇万二七〇〇円を、同松岡美重子については、正規の相続税額二三億四九七三万七一〇〇円との同差額三億九三一万円を、同堀越喜久子については、正規の相続税額二二億五七九三万一三〇〇円との同差額二億一七五〇万四二〇〇円を、それぞれ免れたものである(別紙2脱税額計算書参照)。

(証拠の標目)

一  被告人六名の当公判における各供述

一  被告人松岡喜美、同太田幸子、同松岡滿喜子、同松岡冨美子(二通)、同松岡美重子及び同堀越喜久子の検察官に対する各供述調書

一  高橋昇の検察官に対する供述調書

一  大蔵事務官作成の有価証券(その他の株式)調査書、有価証券(割引債券)調査書、現金調査書、その他の財産調査書、債務及び葬式費用調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(検察官請求証拠番号甲3)

一  芝税務署長作成の証拠品提出書

一  相続税の申告書一綴(平成四年押第一三七一号の1)

(法令の適用)

全被告人について共通

罰条 相続税法六八条一項、情状により同法六八条二項、刑法六〇条

刑種の選択 懲役刑と罰金刑を併科

科刑上一罪の処理 刑法五四条一項前段、一〇条(犯情の最も重い各自の申告分に関する罪の刑で処断)

労役場留置 刑法一八条

懲役刑の執行猶予 刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、各被告人ごとの脱税額が、約二億二〇〇〇万円から約三億六〇〇〇万円までといずれも多額であるばかりか、全被告人の脱税額を合計すると約一八億三〇〇〇万円に余りに上り、相続税のほ脱事件としては類い稀な事案であり、後記のような動機によるとはいえ、思慮浅く安易に脱税に走った被告人らについては、強い非難を免れない。

しかし、被告人らが本件犯行を思い立った動機をみると、美術品の著名な収集家であり、美術館を運営していた父松岡清次郎が、現美術館が美術館として満足できるものでないことから、新たな美術館を建設し、その収蔵品も一層充実させたいという志を有し、計画を具体化しつつあったところ、その志半ばで亡くなったため、故人の熱い意志を身近に感じていた被告人らが、その遺志の実現に一歩でも近づけばとの気持ちから、新美術館の美術品の購入に役立てようとして、本件脱税に及んだものである。このように、本件は、被告人らが故人の遺志を思う余り犯したもので、自分達の手元に少しでも多くの財産を残したいといった私利私欲に基づいた犯行ではないから、その犯行の動機は、酌むべきものである。そして、被告人らは、除外した割引債券をそのまま保管し、その一部はその後の修正申告の際に自主的に申告し、さらに、平成三年二月国税局の調査が開始されると直ちに、本件脱税を国税局に申告し、その上、本税、延滞税、重加算税や地方税の全てを納税している。そして、被告人らは、今回の捜査公判を通じて本件を深く反省し、間違ったことを犯したと悔み、罪悪感にさいなまれており、本件を犯したことで精神的にも肉体的にも多大の影響を受けているのである。

以上の事情等を考慮して、被告人らに対しては、それぞれ主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 朝山芳史 裁判官渡邉英敬は、転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 松浦繁)

別紙1 相続財産の内訳 No.1

<省略>

相続財産の内訳 No.2

<省略>

相続財産の内訳 No.3

<省略>

別紙2 脱税額計算書 No.1

納税者松岡喜美

<省略>

納税者太田幸子

<省略>

納税者松岡満喜子

<省略>

No.2

納税者松岡冨美子

<省略>

納税者松岡美重子

<省略>

納税者堀越喜久子

<省略>

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